「船の面倒をみたくなったら、いつでも来てくれ」

 アニータがそうだったみたいに、と、ノアは小さくつけたしました。

 それからノアはチェンのことなど気に止めず、朝日を浴びて丘を登っていきます。いつでも来ていいということは――いつもいていい、そういうことでしょう。チェンはそう解釈しました。

 それからしばらく、 チェンはウト・ピアの村にやって来た朝を見下ろしていました。

 面積ばかり広く貧弱な畑、その間にぽつりぽつりと建つ民家。背の高い建物も木もない景色は乾ききっていて、地平線まですっかり見渡してしまうことができました。

 これまでのチェンは、この中からはみ出ることなく生きてきました。だから知らなかったのです、丘から見れば、チェンの世界はなんだか味気なく、つまらないものだったなんて。

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 彼は目をそむけるように、これから自分が作り上げるであろうあの立派な船を思いました。

 あの船が空を飛んだなら、目の前に横たわる茶色の大地をいっきに飛び越えて、あの地平線の向こうを見ることができるのです。そしておとぎ話や冒険が本物になる素敵な場所を探し回ることができるのです。そう、この丘の地下室みたいな。

 そんな風に考えるといてもたってもいられなくなって、チェンは飛び上がるようにして立ち上がりました。それから子供のように軽い足取りで、丘を一気に下っていきました。

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