まあ、その時には友人の方もたまたま寝過ごしたらしく、翌日二人して悔しがって見せたようですがね。

 それから五年が経った今、チェンはもう悪魔なんてものを信じる年ではありません。大人たちが何らかの理由で子供を丘に近付けたくないだけだと知っています。それでもチェンは怖いのでした。

 丘に行って、本当に何も起こらなかったら? 物心ついたときから畏怖と神秘を夢見たあの丘で、なんの変哲もない夜が過ぎていたら。

 チェンは今日も窓を乗り越えかけた足をひっこめて、弟たちが所狭しと寄り添って眠る寝室へ引き返すのでした。

 ところがその晩、チェンは深い夢の中で丘を駆け降りる巨大な馬車がバランスを崩して事故にあう、そんなおかしな夢を見ました。

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 翌日、予感がした彼はふらりと丘のふもとへ散歩へ行きました。そして異変を発見したのです。それは大工の息子である彼には馴染みのあるものでした。

「ボルトだ」

 悪魔が通ると言われる丘のふもとに、無骨な鉛製のボルト。少し気になったので、彼はその場にしゃがみこみ、さらに目を凝らしました。

 見つけたのは、大きなスプリングに折れた釘。またスプリング。鉄にしては軽すぎる謎の銀色の破片。バラバラになった木材。この辺で何かが壊れたのは確かなようです。

 チェンは思わず呟きました。

「悪魔の馬車……」

 丘のなだらかな斜面を見上げながら、チェンは昨夜の情景を思い描きました。

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