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夜、開く

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 その時がやってきたのは、ウト・ピアのとある夏の日のことです。

 雲一つない青空高くへ昇った太陽は、じりじりと音をたてそうな白い光線を放って輝いていました。そして南から吹き付ける風が土の香りのする暖かい空気を運び、息をするのも苦しいほどです。

 そんな中、十七歳になったチェンは額に汗を垂らして石碑を磨いていました。

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 年ごとにくっきりとしてきた眉骨や鼻筋とは対照的に大きな鳶色の瞳にはまだ幼さが残っていましたが、相変わらずの浅黒い体はすっかり成長し、手足も胸板も筋肉で厚みが出ていました。肩まで伸ばした金髪は後ろで小さく結び、長さのまばらな前髪はバンダナでまとめています。

 チェンは額の汗を拭って、目の前の石碑を磨く手を止めました。努力の甲斐あって、雑草に覆われツヤを失っていた表面は、今では濡れて黒く輝いています。そこには顔も覚えていない兄の名前が彫られていました。

「こんなもん、かな」

 この日は兄の命日で、家族総出でお墓参りに来ていました。
 しかし真面目にお墓の掃除をしているのは、気づけばチェン一人でした。四人の祖父母と両親、そして他の兄弟たちは、同じ理由で墓地に集まった近所の人達と話し込んだり遊んだりしていました。

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