ずっと昔、まだチェンの意識が曖昧なほど幼かった年のこの日、チェンの兄をはじめ村の大半の男の子たちが働いていた工場で大きな事故があったんです。その時の火事でたくさんの男の子が亡くなりました。その家族たちがそろって墓地に集まるのですから、皆ついつい目的を忘れてしまうようです。  チェンのすぐ後ろでは、母親たちが井戸端会議をしていました。

「あんたのとこのキキはかわいいし、料理もうまいし。あたしはいいと思うんだけどねぇ」
「ちょっと、休憩しようかな」

 母親一同の視線を感じたチェンは、バケツの水で手を洗うとそそくさとその場を離れました。

 アコーラでは十七歳で結婚を許されます。
 なのでチェンの村でも、同じ年の子の婚礼がちらほら行われるようになりました。

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 伝統の色鮮やかな衣装を着て、親戚一同に色とりどりの紙吹雪を浴びせられながら新居に入り、友人や隣人も交えて宴を開くのがウト・ピアの典型的な婚礼です。先進大陸風のものとは違って花火もネオンもありませんが、素朴で温かなものですよ。

 チェンも何度か参加したことがありました。どれもこれものどかで愉快で、そしてちょっと感動的な思い出に残る素晴らしい会ばかりです。しかし隣人や姉たちの婚礼を楽しむことはできても、チェンはその主役になりたいとは思えないのです。

 宴会はとても陽気に執り行われます。結婚する二人は幸せそうです。その家族も笑顔でいっぱいです。そしてこの頃は、母親がしょっちゅう年頃の女の子を連れて来ます。それでもやっぱりチェンにはその気が起こりません。

 彼の耳には、仕事中の父親の言葉がこびりついていました。

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