船の長さは三十歩弱、幅は五、六歩といったところ。これだけの大きさのものを破綻なく設計するには大変な経験が必要でしょう。それに何より、左右に伸びる翼の立派なこと! 数え切れないほどの細かいパーツを、まるで本当の鳥の骨格のように組合わせているのです。

「なあ」

 歩み寄っても、少年は振り向きもしません。チェンは仕方なくその背中に話し掛け続けました。

「なんかその車輪、なんか変じゃないか?」

 少年の手が、一瞬止まりました。しかしすぐに彼は作業を再開させ、チェンを無視することに決めたようです。

 こんなあからさまな態度を取られるのは初めてのことで、チェンは戸惑ってしまいました。いたたまれず、チェンは家を恋しく思いました。

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 一声上げれば皆が親しみの眼差しを向けてくれる我が家。走れば、この冷たい場所から半刻もかからず帰ることができます。

 でもチェンには、見慣れた家の灯にはもう戻れないことが分かっていました。チェンもすでに、風にさらわれてしまったのです。ついさっき、夜空へ向けて窓を開け放ったあの瞬間から。もはや自分の意志では操ることができない旅へと自分自身を放り出してしまったのです 。

 チェンは船底に近づき、表面をそっと撫でてみました。丁寧にやすりをかけられていて指先に抵抗はなく、さらりと滑るほどです。
 彼女の髪もきっとこんなだったのでしょう。風にふわりと乗って、きっと誰にも掴めない。

 それなのに。

 雑な取り付けの車輪は、女神像を冒涜するムカデの足のようにグロテスクで哀れでした。

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