そして満天に輝く星々の下、丘の斜面に座礁した船を残し、月影と同じ白銀色の髪をした少年は波打つ草間を登って行きました。

 中腹辺りでその小さな背中が急に屈みこみました。すると突然地面が左右に四角く開き、丘の中に真っ暗な空洞が現れたのでした。

 あの隠し倉庫の中の臭いときたらひどいものでした。重たく鼻の奥にまとわりついて、金属と油の味が喉まで垂れ下がってくるようでした。それに古い埃のかび臭さと、着古した服から漂う皮脂のにおいが混じり合って、息がつまるんです。そう、たとえばおばあちゃんのタンスみたいにね。

 だけどね、チェンはそんな風には思わなかったんですよ。見た目の割にロマンチストなんですね。目の前に大きく口を開いた暗い穴から漂うこの悪臭は、きっと女神を守るための威嚇なんだと、妙に感動したりしていました。

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 そうやって穴をじっと見つめていると、その中の一点に明かりがつきました。少年が手にしたランタンを高い棚のようなものに乗せようと、背伸びしていました。
 実際に彼の前にあったものは棚ではなく、巨大な糸巻きのようなものでした。高さは少年の背丈と同じくらいで、胴回りは大人二人が両腕を広げても抱えきれないほどです。チェンは近づいて、そこに巻き付けられた綱に顔を近づけました。太さはチェンの手首よりやや細い程度で、細い鋼を寄り合わせてありました。

「これを船の尻に付けて、巻き上げるんだ」

 少年はそう言って、輪になった綱の端を見せてくれました。

「巻き上げるったって……」

 チェンはふもとに残してきた船を思い出しました。男二人ではとても、引っ張れるはずがありません。

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