「だから、俺は夜しか外に出ちゃいけないんだと、役人が言っていた。親父の作ったもののせいで、たくさんの子供が死んだんだからな」

 ずうん、と音を立てて船が止まりました。同時にパチンと、チェンの頭の中でパズルがはまる音がしました。

 キカイ、火事になった工場、そして作り上げられた丘の悪魔。
 なぜ大人たちがあれほど丘を嫌ったのか、子供たちを遠ざけるのか。

 チェンは母親の悲鳴のような歎きを思い出しました。だから嫌だったのよ、得体の知れないキカイなんかに頼るなんて。稲妻のように、母親の金切り声がひらめきました。

 兄の死の原因が、この少年の父親。
 チェンは胸がどきどきと鳴るのを全身で感じました。

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 兄のことは、実はよく覚えていませんでした。でも、兄が亡くなり、どれだけ両親が心を痛めたかは知っていましたから。だからチェンは両親を悲しませないため、立派な兄を演じてきたのです、二人分になれるように。だけど――。

 チェンは、先程少年が一人草むらにうずくまり、月光だけを頼りに手探りしていた姿を思いました。小さな背中は、チェンの弟たちと何も変わりません。むしろ彼らよりよっぽど華奢なのに、この少年は、たった一人、残されたこの船と暗い夜をさまよって来たのです。

 浮かんでくる家族との思い出に浸るチェンをよそに、少年は船と床を鎖で繋ぎ終えました。

「……だから帰れって言っただろう」

 少年はタオルで汗を拭きながら、チェンのそばへ戻ってきました。ランタンでなんとか分かる彼の表情は、皮肉げな笑みでした。

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