ところがそのガラクタ、空飛ぶ船――まあ、空を飛びそうな船、ですが――が、目の前に現れたわけですから。

 当然、チェンはこの機会を逃すわけにはいきませんでした。

「いや。どっから手ぇ着けようかって、考えてた」

 結果、チェンが口にしたのはそんなひねくれた言葉でした。

「何のことだ?」
「いやだから、この船の修理」

 真面目腐ってそう言うと、チェンはじっと、暗がりの中の船についた車輪を見つめるふりをしました。お前に触らせるわけないだろうとか、そんな風に言われたらどうしようと、内心穏やかではありませんでした。

 そんなチェンの心配をよそに、少年は小さな笑い声をもらして言いました。

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「そうだな。お前、そういうの詳しいんだったな。手伝ってくれるのか?」
「ま、まあな。お前に任しといたら、この船いつまで経っても飛びやしねぇよ」
「だが、ここに来るなんて言ったら家族は許さないんじゃないか?」

 少年の言うことはもっともでした。ウト・ピアの大人たちはみんな、この丘を無視することに決めていたんですからね。でもチェンは、父の言葉をしっかり覚えていましたから。

「平気だよ。オレ、こう見えてもう十七なんだ。一人立ちする年だ。いざとなったら家出してくるさ」
「家出か」

 少年はふと、声のトーンを落としました。

「懐かしいな。アニータも、家出するんだって言ってたっけ……あいつ、どうしてるのかな」

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