![]() 夕暮れの王女![]() 少年の口からアニータの名前が出たことに驚いたチェンは、一気に色々な質問をぶつけてしまいました。 なぜアニータを知っているのか? まだ連絡を取れるのか? 彼女は今どこにいるのか、どうしているのか。 少年はそのどれにも答えず、ただ、自分の名前はノアだとそう教えてくれました。 「地下は蒸す。話は上でしよう」 |
ノアは一通り機械の点検を終えると、チェンをつれて外へ出ました。外は生暖かい風が吹いていましたが、地下のかび臭さがないため呼吸が少し楽でした。 地下への入口をきちんと閉めてから、チェンとノアは並んで草間に座り、しばらく黙っていました。空はまだ暗く、満月が天真爛漫に輝いています。丘の斜面は青白く光り、遠くの景色は影に霞んで見えません。ここからはチェンの家をはじめ村の家々がいくつか見えるはずですが、明かりは見えませんでした。 「アニータと初めて会ったのは――」 それは輝く夏の夕暮れ時。 小屋の地下室は当時、まだ空調がしっかりしていなかったのか、今よりもっと蒸し暑かったそうです。 |
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