『お前、自由にしたっていいんだよ。姉さん二人も嫁に行ったし、他の弟妹もみんな働いてくれてる。うちのことなんて気にしないで、好きに生きたらどうだ』

 しばらくチェンは、きらきら光る丘の斜面を眺めていました。
 それからお墓の方を振り返ると、立ち話している大人たちの間から、弟たちがバケツを持って歩いて行くのが見えました。

 父親から言われなくても、チェンにだって分かっていました。
 弟たちはすでにしっかり父親を助けられる年頃です。彼らが最後に船のお伽話をせがんだのだって、もう一年以上も前のことでした。弟たちも妹たちももはや子供ではなく、夢物語に目を輝かせたりはしません。

 チェンは目だけを動かして父を探しました。人混みの中でようやく見つけた父親は、いつもより余計に小さく見えます。走り寄って飛びつこうとする小さな末の妹を抱き上げるのにも、一苦労です。

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「強がりやがって」

 チェンはぽつりと呟きました。

 チェンは、これが自分の選択だと納得していました。子供の頃の幻想は月夜に似ています。明るく気持ちを照らしてはくれますが、そこには太陽ほどの温もりがありません。

「オレがいなきゃ、困るに決まってんだろ」

 兄のお墓に視線を戻すと、苦労して井戸から汲んできたバケツの水をひっくり返した弟たちが喧嘩しているところでした。チェンは苦笑いして、急いで家族のところへ戻りました。

 きっとこれから先ずっと、何も変わらない。チェンは家に残って父親を助けて、兄弟の面倒を見て過ごすのだと、そう思っていました。そしてそれで良いのだと思っていました。
 しかし、若者を平和な家の中に引き留めていた一見強固な綱は、その夜に音もなく切れてしまうのです。

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