こうして月の光に浮かび上がる船と人影を見上げていると、頭がぼんやりとしてクラクラしました。これが現実なのか、熱にうかされた幻なのか、チェンには自信が持てませんでした。 「あの……さ」 チェンはおずおずと声をかけました。草をかき分ける風の音も止み、辺りはしんと静かになりました。しかしチェンの声は月光に吸い上げられたみたいに、思ったよりも小さな声になってしまいました。 「あのさ、これって……」 するとその少年は、遮るようにばっと手摺りに乗り出しました。 「お前!」 甲高い声で怒鳴りつけられて、チェンは体をすくめました。 |
その様子が見えたらしい少年はさらに身を乗り出してきて、今にも落っこちてしまいそうでした。 「何しにきた? 夜は俺の好きにさせてもらう約束だぞ!」 突然の抗議に、心当たりのないチェンはなんと答えていいかわかりませんでした。ただ口をぽかんとさせて見上げていると、少年はチェンの背丈の二倍以上はある甲板から飛び降りました。 そして少年が目の前に着地するのと同時。彼の足元の草ががさっと音を立てて、ようやく彼が実在するものだという実感が湧いてきました。それくらい、彼は不思議な少年でした。 少年は立ち上がっても、チェンの顎より下くらいの背丈しかありませんでした。髪は短く刈り込んであり、月明かりに青白く光っています。 |
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