この少年はアコーラ人ではありませんでした。でも、白い麻のシャツの衿元にはアコーラに伝わる緑の刺繍がされています。乾いた大地に悩まされるアコーラでもよく育つ、ツル芋を記号化した模様で、あの国ではよくあるデザインなんですよ。

「いまさら何の用だ」

 少年の声は冷たく、緑色の丸い瞳は警戒心で剣のように光っていました。

 チェンはそっと唾を飲み下して、それからできるだけ穏やかに声をかけました。

「なあ、そんなに怒るなよ。オレ、ちょっとその船が見たいだけなんだ」
「俺から船まで取り上げる気か!」

 どうやらまずいことを言ったようで、少年は拳を振り上げ襲いかかってきました。

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 チェンはぎょっとして、振り下ろされる手首を力いっぱいひねりあげてしまいました。チェンと彼ではそもそも体格が違いすぎますからね、悲鳴を上げたのは少年の方でした。

「あっ、悪い」

 あわてて手を離すと、少年は腕をかばうようにして睨んできました。手負いの獣というよりは手負いのネズミという感じで、チェンはなんだか自分がとてもひどいことをしたような気持ちになりました。

「ごめんな、オレ、そんなつもりじゃないんだ。ただ、この丘に何があるのか知りたくて来たんだ」
「俺を知らないとでも言うのか」

 少年はひどく辛辣な口調でした。チェンは弟たちをなだめる時のように、ゆっくりと答えました。

「ああ、知らない。この丘に近づいちゃいけないっていつも言われてたから」
「……それだけか?」

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