そこは柱も土台もなく、ただ土を固めただけの壁に藁をふいただけの掘っ建て小屋です。入口の白木戸は蝶番が外れかけていて、いつもきいきいと揺れていました。

 シェーラはその扉を勢いよく開けて、中へ飛び込みました。

「おじいさん!」
「おお、シェーラ」

 こぢんまりとした釜戸と質素なテーブル、椅子が二脚あるだけの小屋には、一人の老人が住んでいました。

 彼の金髪は色褪せてほとんど白に近く、いつも脂でべたべたしていました。それにしわだらけの赤土色の肌はヒビだらけで、古い土壁のようです。落ち窪んだ二重の大きな目やまあるく上気した赤い頬には、いつも親しげな笑顔が浮かんでいました。

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 彼は小屋へ入ってきたシェーラを歓迎するように、椅子から立ち上がり両手を広げて見せました。

「今日も家を抜け出してきたのか。悪い子だ」
「いいの。うちにはたくさんの兄弟姉妹がいるもの。でもおじいさんには、私一人きり!」

 そう言って、シェーラは毛穴の開ききった老人の頬に口づけしました。老人は大きな口を横に引いてはにかんでから、再び椅子に座りました。

「いつも気遣ってくれてありがとう。だが、このままでは君は家族ののけ者になってしまう」
「もう嫌われ者よ」

 屈託なく笑いながら、シェーラは丸椅子の上であぐらをかき、長い金髪をかき揚げました。

「二十にもなって嫁にも行けず、働きもしないんだもの。みんな最近じゃ呆れてなんにも言ってこないんだから」

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