「君ほどの美人に貰い手が付かないなんてねぇ。シェーラ、この村の若いもんの趣味は分からないよ」

 そう言うこの老人は、元々ウト・ピアの住人ではありません。彼はある日突然やって来た、アモーロート出身の旅人を名乗っていました。

 アモーロートとは、アコーラの最西に位置する巨大な城下街です。

 当時のアモーロートは異国人の出入りが多い非常に栄えた街でした。
 アコーラの西には「白の大平原」と呼ばれる砂漠がありましてね。トカゲ人というとても狂暴な種族の住む場所です。でも先進大陸やアトランティカ海域から陸伝いでやって来るには、ここを越えなきゃならないのです。
 そして砂漠側に突き出たアモーロートは、彼ら旅人にとって一番近い安全地帯。だから西側の人はみんなアモーロートを目指して来るというわけです。

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 そんなアモーロートにあこがれるのは、ウト・ピアのような田舎に生まれ育ったシェーラにとって当然のことでした。

「私、お嫁に行くつもりなんかないわ。それよりおじいさん、今日は何を教えてくれる?」
「そうさなぁ。北の黒の森の話もしたし、南に広がる海の話もしたな。西の果てにあった滅びた文明の話なんか、どうだい」
「それ、三回目よ?」
「そうか。じゃあ、今も続く先進大陸の戦争の話は?」
「なんだか退屈そう」
「難しい年頃になってきたのう」

 老人はしかし嬉しそうに目を細め、一度背伸びをしました。

「じゃあ、西の大賢者の話でも聞かせようか――」

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