先進大陸で生まれ育った方には信じられないかもしれませんが、アコーラ王国には義務教育制度というものがありません。様々の知識を学ぶことができるのは、豊かな家に生まれた子供だけです。貧しい子供たちは親か奉公先の家から生活に必要な知識を学ぶだけ、それがこの国の常識でした。

 だけどシェーラはそれじゃ満足できなかったんでしょうねぇ。

 旗織り機の使い方より、遠い国の暮らしを。
 茶色いツルイモの育て方より、色とりどりに咲き乱れる花の名前を。
 質素な料理の作り方より、この世界を形作っているものの正体を知りたかったのでしょう。目の前の現実よりも、空に踊る空想の世界に生きたかったんでしょう。

 でもね。あの丘の上の家からは、見渡す限り続く大地しか見えないんです。青い空や白い雲にまで触れてしまいそうなところまで続く、大地という鎖しか。

47×40←PRE


 一体、どうやったら現実から逃げられるのか?

 シェーラがその質問をする前に、老人は亡くなってしまいました。
 身寄りのない彼の遺体は、引き取り手のない彼の小屋と一緒に燃やされ、黒い煙りになって空へと逃げて行きました。

「ずるいわ。おじいさん」

 煙りの行き先を見送ろうと、シェーラは涙を拭い空を見上げました。すると、何かが青空の中で輝いたのです。

 一瞬我が目を疑ってシェーラは数度瞬きしました。でもやっぱり、遥か上空で何かが光っているように見えるのです。
 それは眩しい午前の太陽を照り返し、鮮やかなエメラルド色に輝きながら、緩やかに降下しているようでした。

NEXT→47×40