夕日に焼き出された影は、一羽で誇り高く空をゆく大鷲のように凛と艶やかで、近づくにつれてますますノアの心を惹きつけました。 彼女が見たのはきっと、白んだ東の空に浮かぶ現れたばかりの儚く清楚な月と、夕日の残り火を移した少年の間抜けた表情だったでしょう。そして呆けたノアが見つめていたのは、大地を溶かそうとして沈んでゆく、燃え上がる夕空を従えた美しい王女でした。 「あなた、こんなところで何してるの?」 先に声を出したのは少女の方でした。ノアは暫くどう返答したものかと黙り込んでから、ぼそぼそ答えました。 「空を、見てた」 |
遠慮がちに言うと、少女は満足そうに微笑んで巻き毛の一房をかきあげました。 「あなたも仕事をさぼってるってわけね」 少女はさも当然のようにそう言って、額に滲んだ汗を拭いました。仕種の一つひとつからリズムが生まれて、黙っていても歌っているようでした。 ノアが彼女に見とれている間にも太陽は西の大地に消えて、東の空から夜がやってきました。 ああそうだと、ノアは心の中で呟きました。 |
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