久しぶりに来てみると家具は埃だらけで、カーテンも開けっぱなし。蜘蛛の巣のかかった窓からは、塵にくすんだ夜の空が見えました。

 そこには毎年、夏には澄み切った空気に青白い月が冴え、小さな星々が大河のように流れていたはずです。

 ノアはふらふらと吸い寄せられて、埃だらけの窓を開け放ちました。夏の青草の匂いが、風に乗って埃臭いこの部屋に押し入ってきました。火照った顔に心地よい夜風。明るい空に顔を上げて、疲れた瞼を閉じます。

 ノアは、このままではいけないと分かっていました。たくさんあったはずの保存食は底をつきました。ときおり誰かが情けから運んできてくれる食べ物もありましたが、それだけでは到底食いつなぐことができません。
 泣きながら読めない本と向き合っていないで、きちんと働いて食べ物を手に入れなければ。

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 村長はウト・ピアへの出入りを禁じているので、北のマンナ・ピアへ行って働くことになるでしょう。だけど家以外で働いたことのないノアにはなかなか踏ん切りがつきません。

 誰かが励ましてくれればいいのに。
 あんなことを言われたのに、思い浮かぶのはアニータの顔ばかりです。だってノアの友達はアニータだけだから。

 でもそのアニータは、もうノアに呼び掛けるのをやめてしまっています。会いに行こうにも、彼女の家も知りません。

 自分から彼女を拒んだだけに、余計に苦しくなって。ノアはため息と共に目を開けました。

 そのまま息を止めて。耳をすませました。

 遠くから、すっかり丈の伸びた草を掻き分けながら丘を駆け上がって来る、軽やかな気配が迫っていました。

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