それはまるで野を駆けるしなやかな獣のように、伸びやかな旋律のように夜風に響いて。そしてこの刺し沁みる月光の下に、彼女がやってきました。 「アニー!」 アニータは弾んだ息をつきながら、窓辺に駆け寄り、飛びつくようにノアの首に長い腕を回しました。 ノアはアニータに、離れるように言おうとしました。そうでないと息さえもできません。きっと彼女の巻き毛が顔にかかっているせいに、違いありません。 しかし口を開いたのはアニータの方が先でした。
「ノア。私もうあなたとは会えないの」 その言葉はノアの中に生まれた熱い強張りを、どこかに吹き消してしまいました。 |
「私、明日アモーロートへ行くの。父さんが遊びに連れて行ってやるって。でも、そんなの嘘なのよ。あの人は私を厭らしいじじいに売りつけるつもりなの! そうやって自分たちだけ幸せになろうとしてるんだわ!」 背中に回されたアニータの両腕に、ぐっと力が入ります。
「絶対、あいつの思い通りになんてさせない……誰かの奴隷になんて、なるもんか! だから、ノア。私逃げるわ。こんなつまらない田舎町からも、下らない家族からも。でもねぇノア、あなたに会えなくなるのは淋しい」 滝のように言葉が流れていきました。意味がわからず、ノアは心の中で反芻しました。 |
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